犬が「甘味」「酸味」「苦味」「塩味」「旨味」という味覚を感じられることには、なにか意味があるはずです。
この記事では、上記5つの味覚のうち「酸味」と「苦味」を犬が感じ取れるようになった理由を考えていきます。
どちらも「食べてはいけない食材を見分ける」ために感じ取れる必要があったのではないかと考えています。
この記事でまとめたこと
集団行動で「生き抜く知恵」を共有していたオオカミ
犬の先祖として有力なオオカミは、群れで森に暮らしていました。
群れで生活するメリットはいくつかありますが、「危険な場所や天敵、食べ物の情報を共有できる」ことが挙げられます。
特に食べ物に「毒がないか」「腐ってはいないか」という情報は大切です。この選択を間違えると群れの生存を大きく左右してしまうからです。
群れに属するオオカミにとって、自分が食べる食材の良し悪しは、自分だけの問題ではありません。
群れのオオカミ全員が生存するために、食べられない食材についての情報は常に全員で共有していた可能性は大いにあります。
危険な食べ物の発見方法は原始的だった
Google検索のような便利なものは当然ありませんし使えません。オオカミが危険な食べ物を発見する方法を考えると、おそらく「視る」「嗅ぐ」「味わう」というような、原始的な方法を取っていたはずです。
つまり危険な食べ物を察知するために「味覚を使って判断していた」ということです。
酸味は食材の「酸性の強さ」で決まる
酸味とは文字通り「酸っぱさ」を感じる味覚のことです。
そして「酸っぱさ」とはその食材の「酸性の強さ」に依存します。
下の図では、酸っぱい食べ物の代表例である「レモン」「食酢」「梅干し」の酸性の強さを、他の食材と比較しています。
pH(ペーハー)とは酸性の強さを表す数値で、1~14まで14段階あります。数字が1に近いほど酸性が強く、14に近いほどアルカリ性に近いです。pH7が中性です。
レモン、食酢、梅干しのpHはどれも2前後。他の食材よりも酸性が強く、「酸っぱい食べ物」であることがわかります。
森の酸味には「避けるべき食べ物」が多い
森にある食材の酸味は「熟してない果物」や「腐敗物」など、食べてはいけない食材に多い味です。
たとえば熟していない果物には「クエン酸」と「リンゴ酸」という酸が多く含まれています。これはレモンや梅干しの「酸っぱい成分」と同一のものです。
また「糖分」が含まれる食材が腐るとそこに微生物が住みつき、「有機酸」という酸が生成されます。
有機酸が発生した腐敗物は人間でもわかるほど酸っぱく感じます。
このように森にある酸っぱさ(酸味)は、動物にとって避けるべき食材であることが多いです。
酸味を感じたオオカミは群れにいる仲間のオオカミに「あの食材はあぶないぞ」と教えたはずです。
そのため子孫にあたる犬は、本能的に酸味を避ける特性が備わっているのかもしれません。
腐った肉は「匂い」で判断している?
森でオオカミが多く口にする食べ物の代表例には「動物肉(獲物の肉)」があります。動物肉も腐ると「有機酸」が発生して酸味がするのでしょうか。
実は動物肉には糖分ではなく「タンパク質」と「脂質」が多く含まれています。そのため腐っても有機酸はあまり発生せず、酸味も感じられません。かわりに独特な「匂い」を発します。
オオカミも腐敗した動物肉は、酸味ではなく「匂い」で判断しているようです。
ちなみに犬の胃腸機能は人間よりも強く、お腹を壊しにくい動物だといわれています。
オオカミ時代、犬は他の動物が狩った獲物の食べ残しを食べたり、狩った肉を穴に埋めて保存していたりして食糧を確保していました。「多少腐って変な匂いがしていても、食べなくては生きていけない」という環境が、犬の胃腸を強く進化させたのではないかと考えています。
苦味は「毒がある食べ物」のサイン
苦味は毒がある食べ物に多い味なので、人間も犬もオオカミも苦味はイヤがる傾向があります。苦味は「哺乳類が嫌う味」だとされています。
たとえば、ほんのりと苦味のある春の山菜「わらび」は、アク抜きをせずに食べると中毒症状を起こすことがあります。わらびのアクには「プタキロサイド」という発がん性物質が多く含まれているからです。
また毒があることで有名な植物である「トリカブト」にも、強い苦味があることが知られています。
このように動物は、体に有害な物質を「苦味」として感じ取ることができるのかもしれません。
美味しい「酸味」「苦味」が森には無い
今でこそ、「酢の物」「スーラータンメン」など少し酸っぱい食べ物が人気になったり、「ビール」「コーヒー」など苦い飲み物の愛好家がいたりと、「酸味」「苦味」が食事の一部に組み込まれる時代になりました。
「美味しい酸味」については研究が進んでいて、大体「pH5.5~6.0」の弱酸性くらいの味をもっとも美味しいと感じるそうです。苦味についても「美味い」と感じる味わいは研究されています。
もちろん犬やオオカミにとっても美味しい酸味、苦味の領域はあるのでしょう。
しかしオオカミが住んでいた森には「美味しい酸味」「美味しい苦味」は存在しなかったのではないかと思います。
酸味と苦味をあげるときには慎重に
以上のことから、「酸味」と「苦味」は食べてはいけない食材を避けるために備わった味覚ではないかと考えています。
「危険を体に知らせる感覚」という意味では、痛覚(辛味)にも似ていますね。
犬とオオカミの食性はかなり似ていて、犬も強い酸味や苦味はいやがる傾向があります。
犬に辛味のある「香辛料」はあげないほうが良いように、酸味苦味のある食べ物についても慎重にあげることをおすすめします。