犬が甘味に敏感な理由を、「犬の進化の歴史」と「甘味の成分」から考える。

埼玉県立川越高校、慶應義塾大学薬学部を卒業後、薬剤師免許取得。アクトデザインラボ株式会社のペット事業部所属。保護猫の「しお」「まめ」「こたろう」と暮らす。

犬は「甘味」「酸味」「苦味」「塩味」「旨味」の5つの味覚を感じ取ることができます。中でも「甘味」には特に敏感といわれ、「塩味」には鈍感といわれます。

どうして犬は甘味に敏感に反応できるのか、この記事ではその理由を「犬の進化の歴史」と「甘味の成分」から探っていきます。

「野生で生き抜くために、甘味を敏感に感じ取れる必要があったから」というのが私の見解です。

 

犬の先祖は何を食べていたのだろう。

facial portrait of small doggy (Russian toy terrier) over white (facial portrait of small doggy

犬の先祖については諸説ありますが、「オオカミ」であるという説が有力です。

野生のオオカミには群れで暮らす習性があります。群れで行動し、協力し、狩りを行い、食事も群れの仲間と分け合って食べます。

オオカミ

群れには「みんなで協力して獲物を捕まえやすい」というメリットがありますが、群れが大きくなるほど全員分のお腹を満たすには相当量の食事が必要になります。大きな群れほど大量の獲物を狩らなければなりません。

しかし、獲物に逃げられてしまうことや、特に冬場何日も獲物に出くわさない日があったことも考えると、狩りだけでの食料調達はそう簡単ではなかったはずです。

たとえ獲物を捕えることができたとしても、毎日十分な量を確保できていたとは到底思えません。

 

オオカミは「肉食に近い雑食」に進化した

トイプードル

こうした歴史から、オオカミは主食を「動物肉」だけに限定せず、いろいろな食材から効率よくカロリー(エネルギー)を得られるように体に進化させる必要がありました。

実際にオオカミは「肉食動物」から「肉食に近い雑食(何でも食べる)動物」へと進化を遂げています。

 

これによって食事の選択肢が広がりました。中には人間が住むエリアにたどり着き、人間の食事や食べ残しをもらってカロリー補給をするオオカミも登場します。このオオカミが「犬」の先祖であるといわれています。

 

生き抜くためにカロリーを求めるオオカミ

3つ

食材のカロリー量は、その食材に三大栄養素である「炭水化物」「タンパク質」「脂肪」がどのくらい含まれているかでおおよそ決まります。

オオカミの主食である「動物肉」には、タンパク質も脂肪も豊富に含まれています。森で手に入る食材の中ではダントツの高カロリー食材。オオカミが生存のためにまず「肉食」という選択をしたことには納得ができます。

しかし上記の通り、動物肉だけでお腹を満たし続けることは現実的ではありません。動物肉以外の新たな高カロリー食材をもとめ、オオカミは旅に出ます。

 

たどり着いた「高カロリー食材」が甘味?

犬 かわいい

森にある肉以外の高カロリー食材をもとめ、たどり着いたのが果物などの「甘い」食べ物だったのではないでしょうか。

甘い食材には炭水化物の分解物である「糖分」がたくさん含まれており、カロリー量は文句なしです。クマも冬眠後にはエネルギー補給のために甘みのあるベリー系の木の実を多く食べるそうです。

 

このように「犬と甘味の出会い」はオオカミ時代にまで遡るのではないかと考えています。犬が甘味を好む理由は、生きるために食性を進化させ、高カロリー食材を探した「オオカミ時代の名残」なのかもしれません。

犬は生存本能的に甘味を欲する動物なのです。

 

犬は甘味の中でも「天然甘味料」を好む

パグ

甘味の中でも、犬は天然の食材にそのまま含まれる甘味を好む傾向があります。果物に含まれる「果糖(フルクトース)」、砂糖に代表される「ショ糖(スクロース)」、母乳に含まれる「乳糖(ラクトース)」などを好み、加工していない甘味という意味で「天然甘味料」とよばれます。

逆に人間が手を加えて作った甘味料を「人工甘味料」とよびます。人工甘味料には天然よりも甘味が強い傾向にありますが、苦味成分を少し含んでいたり添加物が入っていたりするため、天然甘味料とは少し違った味になりやすいです。

この味の違いを、もしかしたら犬は感じ取っているのかもしれません。となれば過去に慣れ親しんだ天然甘味料の味をより好むことには納得ができます。

または、人間も甘すぎる食べ物は胸焼けしてしまうように、犬には人工甘味料の甘味は少々「甘すぎる」のかもしれません。

 

犬は人間よりも甘味を「広く」感じ取れる

犬 鼻

科学的には、「いちご」や「パイナップル」など甘い食べ物は「フラネオール」という香り成分を発しています。

人間と犬はこのフラネオールを敏感に感じ取れるらしく、人間と犬の察知能力は「分析装置よりも精度が高い」という意見も存在します。

犬の嗅覚は人間の約100万倍あるため、犬はその鋭い嗅覚で人間よりもさらに的確にフラネオールを察知できるのかもしれません。

また、犬の「舌」にも秘密がありそうです。

犬舌(甘味)

人間は甘味を「舌の先端のみ」で感じ取りますが、犬はもっと広い「舌の先端から横側まで」の範囲で甘味を感じ取っているという意見があります。

犬が人間と暮らし始めたのは今から約1~3万年前。人間が野生生活を辞め現在の集団生活を始めたのはさらに昔です。

犬は人間よりも野生で生きた期間が長い分、もしかしたら犬にはより甘味を「広く」「正確に」感じ取れる機能が備わっているのかもしれません。

ただ、犬が味を感じ取る舌の場所については「そんなの犬にしかわからない」という意見も存在しますので、断定はできません。

 

肉からも「アミノ酸の甘味」を感じ取れる?

犬 舌

米コーネル大学獣医学部キャサリン・A・ハウプト氏が行った研究によると、犬が好む肉は「牛肉」「豚肉」「羊肉」「鶏肉」「馬肉」の順です。

これには肉に含まれる「アミノ酸の種類と量」に1つ秘密がありそうです。肉には多くのタンパク質が含まれていて、タンパク質はアミノ酸が結合してできているからです。

出典: キャサリン・A・ハウプト氏の研究論文

 

アミノ酸と味の関係

実はアミノ酸にはそれぞれ「味」があり、アミノ酸の味は以下のようにわかれています。

アミノ酸の味

上図のように食材に含まれるアミノ酸の中には「甘味」がするアミノ酸が存在するのです。「グリシン」「アラニン」「セリン」「プロリン」などが甘みのあるアミノ酸です。

ペキニーズ

これをもとに、「牛」「豚」「鶏」に含まれる甘いアミノ酸の量を調べてみると面白い結果となりました。

アミノ酸の比較

セリン以外の3つの甘いアミノ酸の量は、牛肉豚肉のほうが鶏肉に比べて多かったのです。好きな肉の順番にはこの「甘いアミノ酸が含まれる量」も関係しているのかもしれません。

コモンドール

もちろん、好きな肉の順番は「甘味」だけで決まるものではなく、「食感」「色合い」「旨味」「慣れ親しんだ味」など色んな理由があるはずです。

ただ歴史的な背景から犬が本能的に甘味を欲する動物だとすれば、肉の中のアミノ酸の甘味も感じ取っている可能性もありそうです。

 

 犬は人間よりも甘味を敏感に感じ取っているかもしれない

犬 食事

犬の先祖は森に暮らす「オオカミ」であり、オオカミはカロリーを効率よく摂取するために自らの食性を「肉食に近い雑食動物」に進化させて環境に適応した。動物肉以外の高カロリー食材を探した結果、「甘味」にたどりついたのではないか。というのが私の仮説です。

ちなみにオオカミの雑食性は、犬にもそのまま引き継がれています。それ以外にもオオカミ時代の名残と思われる特徴は犬に数多く存在します。

もしかしたら「甘味」という味覚を犬は、我々人間よりも「繊細に」「広く」「敏感に」味わっているかもしれません。